雜詠

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雜  詠


こほろぎに更くる夜ごとをつづれさす

旅に五とせ今二十一


眞日まてり磯の岩床燒けけて

底鳴る潮呻吟に似たり


   房󠄁州布良に旅︀せる日

髪ぬけてししむらただれそれは夢ぞ

まくら邊の御手ほにあたたかき    (扇面)河村龍夫氏藏による


うこそへてさてわ弦よき戰よ

兜の星を南におくる         (扇面「勝鬨圖」〇に短歌)


さちやいかにいまだわがせはかへりこぬ

おきや大島 波の音しぬ     (福田たね氏往時の記憶による)


稍寒󠄁の浴の宿をたつ星明かり


浴の宿や片眼は惜しき杢が嫁


溫泉の村や落葉の六里八ツ下り


溫泉デコの香や落葉一村三十戶


落葉朽葉峯の磯部のか浴湯オユところ


それきずの秋くれむとして猶猶󠄁療えず


秋三歲乳󠄁房󠄁の疵のうらみかな


暮るゝ秋を 髪 かみきりし夜もすがら


剃刀にされど淚の夜寒󠄁かな

この作品は1929年1月1日より前に発行され、かつ著作者の没後(団体著作物にあっては公表後又は創作後)100年以上経過しているため、全ての国や地域でパブリックドメインの状態にあります。